【Music Bird】マイナーレーベルの狂花──Dialレコード

 1948年、アメリカColumbiaによってLPが開発されると、アメリカでは雨後の筍のようにマイナー(弱小)レーベルが乱立されます。歴史的な名演、レオポルド・ウラッハとウィーン・コンツェルトハウス四重奏団によるモーツァルトの《クラリネット五重奏曲》を発売したWestminsterレーベルや、「松脂の飛び散る音が聞こえる」と評されたヤーノシュ・シュタルケルによるコダーイの《無伴奏チェロ・ソナタ》を録音したPeriodレーベルなどは、実はこうしたマイナーレーベルの一つに過ぎなかったのです。

 このようなレーベルの中でもひと際異彩を放っていたのがDialレーベルです。クラシックのLPはわずか19枚しか残さず、しかもその全てが現代音楽──当時の前衛音楽でした。Dialレーベルは、1946年、ロサンジェルスのレコード店店主であったロス・ラッセルが──その後、縁浅からぬ関係となる──チャーリー・パーカーの録音をするために興したレーベルで、パーカーとの長くはない蜜月関係を清算した後、LP時代に入ってからクラシックや民族音楽のレコードを短期間発売して消えていった、多くのマイナーレーベルのうちの一つです。Dialのクラシックシリーズには1番から20番までがあり、栄えある1番はバルトークの《2台のピアノと打楽器のためのソナタ》でした。

 Dialが最も力を入れたのが、シェーンベルクと新ウィーン楽派の音楽です。主だったものには、シェーンベルクの弟子でもあったヴァイオリニスト、コーリッシュが第1ヴァイオリンを務めたプロ・アルテ四重奏団による《弦楽四重奏曲第3番》、ベルクの《叙情組曲》、ウェーベルンの弦楽四重奏曲集、同じく弟子であったヴァイオリニスト、コルドフスキーによる《幻想曲》や《弦楽三重奏曲》、やはり弟子であった指揮者、レイボヴィッツによる《室内交響曲》、《ナポレオン・ボナパルトヘの讃歌》、《月に憑かれたピエロ》、ベルクとウェーベルンの《室内協奏曲》、それにフランスのメリザンド歌手、イレーヌ・ヨアヒムによるべルクの《歌曲 作品2》などがあります。これらの演奏は、今日においてもなお最高の名演と言って差し支えのないものばかりです。

 最後の番号に当たる19番と20番の2枚組は、当時最も先鋭であったジョン・ケージによる《プリペアド・ピアノのためのソナタとインタールード》で、このレーベルの最後を飾るのに、これ以上相応しい結末は考えられなかったでしょう。

 Dialのクラシックシリーズのジャケットは、初期のジャズ・レコードのジャケットを数多く手がけたデヴィット・ストーン・マーティンによるもので、ケージの盤を除けば、全て同一のデザインによる色違いのジャケットが使われていました。見ていると目が回りそうになるレーベルの斬新なデザインもストーン・マーティンの手によるものです。

 Dialレーベルは、パーカーとの契約の問題や大レーベルの台頭などによって50年代早々には姿を消してしまいます。

 しかし、ビバップが最も熱気につつまれていた時代のチャーリー・パーカーの録音を残したこと、当時大レーベルですら顧みなかった現代音楽の数々を、最高の演奏家達によって残したこと、これら二つによって、ジャズ、クラシックいずれの世界でも永遠に語り継がれるレーベルになったと言えるでしょう。

〔Music Bird プログラムガイド 2007年12月 掲載〕