今年、それに来年はチュルリョーニス・イヤー

ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス(1875~1911)は、不遇の短い生涯の間に少なからぬ音楽作品と絵画作品を残し、リトアニアの国民的画家、作曲家と言われています。とはいえ、わが国では未だに知名度は低く、音楽、絵画ともに一部の愛好家のみに知られる存在です。

年も押し詰まった今、なぜチュリュリョーニスかと申しますと、生没年をご覧いただくと解るとおり、今年はチュリュリョーニス生誕150年の年だったのです。ついでに申し上げますとモーリス・ラヴェルも同様生誕150年でした。ついでに言うほどの軽い作曲家では無いですが。そんなこんなで、どうしても今年中に片付けなければならない重要案件でした。

音楽作品に限定しますと、チュルリョーニスの作品は数がそれほど多い訳ではありませんので限定的ではありますが、ロシアのMelodiya盤でそれなりの種類が発売されていました。泥縄の駆け込みですが、現在店舗のディスプレイはチュルリョーニス特集中です。

写真の上段左から2番目と中段一番左のレコードは、ヴィタウタス・ランズベルギスというピアニストによるピアノ作品集ですが、このピアニストは後に政治活動に身を投じ、ソ連時代末期にリトアニア議会議長となり、ソ連からの独立を宣言したことで知られています。最近ニュースで知ったのですが、孫のガブリエリュスもリトアニアの外相を歴任した政治家なのだそうです。

もう一つ、このピアノ作品集にまつわる話を。伝説的な映像作家、詩人であったジョナス・メカスのドキュメンタリー映画『リトアニアへの旅の追憶』では、ランズベルギスのこのレコードの中の数曲が、針音やノイズもそのままに使われ、極めて強い印象を与えています。ランズベルギスもメカスもフルクサスに参加していたこととも無関係ではないでしょう。

CD時代となり、チュルリョーニス作品の録音は増えつつあります。また、近年はリトアニア出身のコンクール入賞者がチュルリョーニスを積極的に紹介しているようで、嬉しい限りです。

前置きが長くなってしまいましたが、鬼も笑う来年の話です。2026年3月28日より国立西洋美術館にて「チュルリョーニス展 内なる星図」が開催されます。チュルリョーニスの絵画展は1992年にもセゾン美術館で開催され大いに話題となりましたが、それ以来およそ30年ぶりの回顧展となります。

リトアニアを代表する画家チュルリョーニス、日本で34年ぶりの大回顧展。優れた作曲家でもあった画家の独創的な世界を紹介。2026年春、国立西洋美術館(東京・上野)にて。

チュルリョーニスは後年、音楽から絵画へと表現の可能性を広げました。画家として活動した期間は短く、またゴッホ同様ほとんどの絵画が売れることなく窮乏のうちに薨りましたが、その短い間に少なからぬ作品を残しました。画材を買うお金にも事欠き、多くの作品が画用紙に水彩で制作されましたが、かなり大規模な連作などもあり、わが国で実物に接することが出来るのは大変ありがたいことです(どのようにして傷めずに輸送するのか勝手に心配しています)

チュルリョーニスの絵画の特徴の一つに、音楽に関連した題材、また音楽的な表現を探求していることがあります。このような視点からも直接、間接に関わらず音楽にも極めて近しい絵画展になるのではと感じています。

お店にディスプレイしているジャケットを見て、通りすがりのリトアニアの方が「私たちの国の芸術家です」と声を掛けていただいたりと、東京の国際都市ぶりを肌で感じています。それにリトアニアは杉原千畝さん以来、縁を感じる国でもあります。

来る年も引き続きチュルリョーニス・イヤーを堪能することにいたします。