【本の街】No. 4 ジャケットの効用?(III)

 「僕という人間は偽りだ、真実を告げる偽りだ」。言葉の魔術でベル・エポックを席捲したジャン・コクトーは、「20の顔を持つ男」の異名通り、あらゆる芸術の分野にわたって才能を発揮しました。中でも美術、特にデッサンは、詩と並んでコクトーの重要な表現手段であったといえましょう。

 コクトーのデッサンは、時に軽業師と呼ばれ、虚偽と諧謔、レトリックで世間を煙に巻いた彼の言葉と比べると、より直線的な──逆説的にはやや奥行きを欠いた、平明な──表現のように感じられますが、「素描」という通り、コクトーの閃きがより身近に感じられる表現形式であるとも言えます。

 そのコクトーのデッサンは、コクトーが格別親しかった「フランス六人組」をはじめ、レイナード・アーンやエリック・サティなどコクトーと交遊のあった多くの音楽家のレコードジャケットを飾ることになります。

 しかし意外なことにコクトーによるジャケットのためのオリジナルデザインというものはごく僅かで、あくまでもジャケットデザインのイラストとしてコクトーのデッサンが──文字通り『Dessins』から──使われることが多かったようです。

 これらコクトーのデッサンの中でも、おそらくはこのアルバムのために書き下ろしたと思われる『フランス六人組』(Columbia FCX 264-5)のデッサンは秀逸です。興味深いことに、このアルバムのアメリカAngel盤は、同一のデッサンを使用しながらもカラフルな多色刷りのタイポグラフィ的デザインを採用しています。しかし、アイボリーに赤1色刷りのフランス盤の醸し出す雰囲気に遠くおよばないと思うのは私だけでしょうか。

 また、コクトーの数少ないオリジナルデザインのジャケットとしては、初演者ベルト・ボヴィによるモノドラマ『声』(Pathé DTX 288)や、ミヨーの《世界の創造》《屋根の上の牡牛》(Discophiles Français 530.300)の自作自演盤などがあり、タイポグラフィとは一線を画したコクトーのデッサンの妙味を堪能することができます。

〔本の街 2003年2月 掲載,ジャケットギャラリーより図版引用〕