【本の街】No. 2 ジャケットの効用? (I)

 初回はレコードコレクターについてあれこれと言を弄しましたが、では一体レコードはなぜこれほどまでに多くのコレクターを惹きつけるのでしょうか。実際この疑問を解明するのは、簡単なようで存外難しいと感じています。

 「妙なる音さえ鳴るのであれば、中身の保護が目的のジャケットのデザインなどどうでもよい」とおっしゃる本格派?コレクターがいらっしゃるのは百も承知ですが、そこを敢えてレコードジャケットの魅力から考え始めてみたいと思います。

 確かにジャケット本来の目的はレコードの保護にあったのでしょう。SP時代の無味乾燥な紙袋、LP黎明期の共通ジャケット、初期ドイツグラモフォンなどに見られるタイトルとライナーノートだけの無愛想なものなど、いずれもこの役目だけは立派に果たしています。

 しかし時は20世紀後半、デザインというものが消費促進に大いに活用されたのは、レコードとて例外ではありませんでした。レコードジャケットもパッケージデザインの一分野として活況を呈するようになったのです。

 しかし、クラシック音楽愛好家の生真面目さに所以するのか、あるいは大手レコード会社の怠慢であるのか、「クラシックレコードのジャケットには、演奏家のポートレート、風景写真、名画の3つのパターンしかない」などと揶揄されているのも事実です。しかも、この傾向がCD全盛の今日にいたるまで、伝統として脈々と引き継がれているの、いささか嘆かわしいことです。

 とはいえ、無限とも思える夥しい数のLPレコードの中には、ジャケットだけでも手元に置きたくなるような秀逸なデザインのものが少なからずあるのも、また事実です。

 アメリカのベン・シャーンやアンディ・ウォーホル、ソウル・スタインバーグのように、一枚の絵画作品としても十分に見応えのあるものもあれば、イラストとタイポグラフィを駆使してデザイン的に優れたものなども挙げることができます。しかし、私自身はどちらかと言うと、ヨーロッパ、それもアール・ヌーヴォーからアール・デコを消化してきたフランスのデザインにより心惹かれるものがあります。

 そのフランスのジャケットデザインを語る上で避けて通ることのできないのがアトリエ・カッサンドル(後アトリエ・ジュベール)とジャン・コクトーではないでしょうか。

〔本の街 2002年11月 掲載〕