映画『スターリンの葬送狂騒曲』

言うまでもなく、旧ソ連という国は形容するのも困難なような、ほとんどコメディのような国であったと言えるでしょう。笑うべき事象の中で人々が抑圧され、次々と粛清されていくのですからたまったものではありません。

しかし私は、このような無茶苦茶な国であったが故にロシア・ピアニズムが発展、あるいは動態保存されたのだと固く信じています。それは結果として私たちロシア・ピアニズム愛好家にとって嬉しいことであったには違いありませんが、その真実はお粗末な社会体制の網から漏れ出た「偏差」に過ぎなかったのではないか、との疑念も拭いきれません。数世紀先の歴史学者がソ連とロシア・ピアニズムをどのようにして総括するのか…今は想像すらつきません。

そんなロシア/ソ連偏愛家にとって、見逃せない映画が登場します。その名もズバリ『スターリンの葬送狂騒曲』。内容はこの表題にほとんど語り尽くされているのではないか、と思えるほどの秀逸なタイトルです。

昨今は、エイゼンシュタインやタルコフスキー、ノルシテインなどのソ連映画とはまた違った、いわば現代ロシア映画とでも言えるもの(その多くがB級映画ですが)が数多く紹介され、また『チャイルド44』のようにロシアを舞台とした映画も増えており、ちょっとしたロシア映画ムーブメントのようになっています。そのような中あえてこの映画を紹介するのにはちょっとした訳があります。

ロシア・ピアニズム愛好家であれば、マリア・ベニヤーノヴナ・ユーディナの名はご存知かと思いますが、中でもユーディナとスターリンとの関係は虚実入り交じる伝説として語られています。この映画にはそのユーディナが登場し(演じるはなんとオルガ・キュリレンコ)、しかも例のスターリンとの関係も含め、相当なキーパーソンを演じているようなのです。

コメディのような国をコメディとしてどのように描くのか、ユーディナは果たしてどのような役回りを演ずるのか。ロシア・ピアニズム好きを称するからには、この映画は是非にも観なければならないのです。

監督:アーマンド・イアヌッチ
出演:スティーヴ・ブシェミ、サイモン・ラッセル・ビール、マイケル・ペイリン、アンドレア・ライズブロー、オルガ・キュリレンコ 他
2018年8月3日より全国ロードショー
映画『スターリンの葬送狂騒曲』公式サイト