ヴィンタートゥール [News写真2005年6月]

ヴィンタートゥール、ウインターツール、ウィンタートゥーア、正直、わたしは実際にどのように読むのか良く分かりません。

いきなりの脱線で申し訳ありませんが、地名、人名の読み方で、ずいぶん昔に「アイヴズ、アイヴス論争」と私が勝手に名づけた、ため息しか出てこないような論争があったのを思い出しました。

ざっくり要約してしまうと、アメリカの作曲家アイヴスを、アイヴスと読むかアイヴズと読むのかで紛糾したのです。この手の議論は、クラシック評論などでも散見され、ヴァグナーかワーグナーか、ドヴォルザークがドゥヴォジャークか、ドビュッシーかダビュシかなど。そこそこ名の知れた評論家先生がこのようなことを得意げに書いているのを見るとがっかりしてしまいます。

ただ個人的には気になっている読み方もあります。ドイツ系フランス人のソプラノ、Irene Joachimです。彼女の父はドイツ人ですから、まっとうに読めばヨアヒムだと思うのですが、仏文出の人はジョアシムと読みますし、ジョアキム、ヨアキムと読む人もいます。さらにはジョアシャンと読む例まであって、何がなにやらです。

わたし自身は、日本人が欧米人の名前を正しく発音するのは難しい上に、それをカナで正確に表記するというのは、そもそもがナンセンスであると考えています。これを逆説的に(弁証法的にと書いたほうがスノブらしいでしょうか)考えると、例えば鈴木さんが外国の人に、スズーキーさんと呼ばれても、シュズキさんと呼ばれても、大して気にはならないし、どちらであっても呼ばれていることは十分わかると思うのです。本田さんはフランスへ行けば恩田(オンダ)さんへと変身してしまいますし…。稀には、名前を間違えて読んだり、書いたりすると激昂される方もいらっしゃいますが。

そういえば、ロシアの知り合いにワレリーさんという方がいるのですが、この人にメールをする時に、わたしは実に日本人らしく、VarelyとValeryを良く間違えてしまうのです。向こうでは少しムっとしているのかもしれませんが、とくに怒られたことはありません。また、ワレリーという呼び方も、実際にはワリェーリィーというような発音なのだそうで、何度真似してみても「違う」と言われてしまいます。

話が大分それてしまいました、ヴィンタートゥールです。チューリヒから20kmほどのこの小さな町には古くから音楽院があり、日本ではWestminsterレーベルの録音で知られるウィーン出身のヴァイオリニスト、ペーター・リバールがそこで長く教えていたことでも知られています。

スイスは小国でありながらも、中立国であり、風光明媚な保養地も多いため、多くの音楽家が訪れ、あるいは終の住処とし、時には録音を残しました。音楽という面においてはヨーロッパ有数の豊かな国であったといえます。

しかし、ヴィンタートゥールといってわたしが一番に思い出すのは、地元のレコード店主に招待してもらった丘の上の農家のような作りの食堂で食べた、生ハムと野菜の盛り合わせです。日も暮れて薄暗い店内で、飾り気なく板の上に盛られた、素材の味が口いっぱいに広がる生ハムと野菜をパン片手に食べた記憶が、いまでも鮮明に残っています。