竹内進 バリトン・リサイタル

ひとつ飛ばしてしまいましたが、昨年12月6日に行われた竹内進さんによるフランス歌曲リサイタルです。

竹内さんはフランスの名バリトン、カミーユ・モラーヌに師事された方なのですが、私にとってもモラーヌは特別な存在であったため話の合わないはずはありません。時々ふらっとお店に現れては、モラーヌ来日時の話、モラーヌのライバルであったジャック・ジャンセンのこと、留学時代のスコラ・カントルムの話などを聞かせてくれるのです。

そんな竹内さんは、年に1度フランス歌曲リサイタルを催されており、その年ごとに作曲家やテーマを定めたプログラムを用意されます。昨年はプーランクでしたが、今年はさらに一歩進んで、フランス六人組胎動期の作品です。

一口に六人組の歌曲作品といっても、プーランクは歌曲全集が発売されているなど比較的その作品は知られていると思うのですが、他の作曲家はというと、ミヨーやオネゲルといった有名な作曲家ですらあまり録音がなく、オーリック、デュレ、タイユフェールともなると、歌曲の録音を探すこと自体が骨の折れる作業となってしまいます(これは主にレコードの場合ですが、CDでもそれほど事情は変わらないと思います)。

それでもSPの時代から、六人組の歌曲コンサートを始めて行ったジャヌ・バトリやクレール・クロワザがいくつかの録音(作曲者自身のピアノによる)を残していますし、高名なメリザンド歌手イレーヌ・ヨアヒムは、LP初期に「フランス六人組」という大変に素晴らしいアルバムを残しています。

竹内さんのコンサートの特徴の一つは、歌う前に竹内さん自らが、ときには関連する資料や写真を手に、曲を解説をすることです。その朴訥とした口調と、「今日はどうものどの調子がおかしくて…」とか「練習不足で…」と言うような、わたしが勝手に「自虐ネタ」と呼んでいるコメントを聴くのが密かな楽しみとなっています。

もう一つの特徴は、訳詩付きの大変に凝ったプログラムで、訳文も竹内さん自らが意味の伝わる範囲で逐語的に訳されたもので、巷で読むことのできる文学的意訳とは、また一味違ったものとなっています。そもそも、多くの曲は日本語の訳文さえ手に入れるのに一苦労するようなものばかりなのですが。

肝心のコンサートは、ご本人はこれまた自虐的に「今日は特に調子が悪かったので…」とおっしゃっておりましたが、私は初めて聴くデュレのモダンな作風に「おお」と思ったり、ミヨーの「花のカタログ」が、実は花屋さんの宣伝をそのまま詩に使っていることを初めて知ったり、おなじみ動物詩集でアポリネールの天才ぶりを再認識したりと、実に楽しい一夕となったのでした。

昨今は、本場フランスでもフランス歌曲はあまり顧みられていないように思います。ましてや日本でフランス歌曲を聴く機会というのは、(外来演奏家が歌うような有名曲を除けば)非常に限られていると言わざるをえません。竹内さん自らおっしゃるように、師であるモラーヌとは比較できないのかもしれませんが、このような機会を毎年用意してくださる竹内さんの姿勢には頭の下がる思いです。